雪が降る日に:リトアニアの回想【エッセイ】
「雪」
リトアニアの雪景色
雪とキンとして刺すような冷気を肌に感じると、去年のリトアニアの寒さを思い出す。リトアニアは知らない人もいるかも知れないが、ヨーロッパの北の方に位置する小さな国だ。バルト三国の1つとしても知られる。僕のいたリトアニアは−30度近くまで下がる極寒の国だ。
冬に外に出るのはとてもきつい。
写真のように吹雪になり、街は白色に覆われる。
こんなに雪が降ると地面がどこかわからなくなり、今まであった境界線がすべて失われたみたいだ。
雪は音を奪う。真っ白い森を抜ける時、「ギュッギュ」と自分の靴が雪を固く踏みしめる音だけが聞こえる。
生物の気配はなにもない。
ただ、白い世界に木々が耐えている。
リトアニアの授業でTSエリオットの「荒地」を読んだ。
四月は一番残酷な月だ
不毛の土地からリラが芽生え
記憶が欲望とごっちゃになり
根っこが春雨を吸ってモゾモゾする
冬はあたたかく包んでくれた
気ままな雪が大地を覆い
球根には小さな命がやどっていたーTSエリオット「荒地」
春は残酷で、冬はあたたかくつつむなんて逆だろうと思っていた。
リトアニアの冬の中では。
今は少しだけ分かる。
雪が降ると温かい気持ちになる。
白さがすべてをつつんで、清めてくれるように。
少しだけそう願って、静かに目を閉じる。